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千房社長・中井政嗣の相談室「悩んだらあきません!」
厳選記事2013年3月号
千房社長 中井政嗣の相談室「悩んだらあきません!」 【Q.】娘と従業員の結婚が認めがたい
【 Q.娘と従業員の結婚が認めがたい 】
長女(25歳)が従業員と結婚すると言い出しました。すでに妊娠していて、意思は固いようですが、一人娘である長女にはしかるべき婿を迎えて事業を継がせるつもりでした。
せめて相手が見込みのある男ならよかったのですが、社歴2年で、勤務態度を見ても、後継者には不適格に思われます……。
●部品加工業 Sさん(51歳/男性) 創業=1961年 年商=6億2,000万円
従業員=55名 本社=大阪市中央区
【 A.情熱をもって彼を変えてください 】
結論から言いますと、何も問題はありません。なぜなら、Sさん、あなたのお嬢さんが決めたことだからです。あなたの血を分けたお嬢さんがそう決めたのですから、大丈夫です。何も心配する必要はありません。
もちろん、Sさんの父親としての気持ちもよく理解できますが、これまでの勤務態度でまだ若い彼の「これから」を判断するのは、あまりに早計です。今後、Sさんが彼を後継者候補としてしっかり育てていけば、変わります。人間は、環境によって変わる。他でもない、この私がよい例です。
私は7人きょうだいの四男で、3人の兄と姉が1人いました。兄や姉、そして私の弟も妹も、学校の勉強はできたほうで、とくに三男は中学校の生徒会長に選ばれるほどでした。それでも、経済的な事情で高校進学はあきらめざるを得ず、卒業すると丁稚奉公に出ましたが、それを惜しんだ担任の先生がたびたび自宅を訪ねてくださり、熱心に進学を勧めてくださいました。
ところが、私も同様に丁稚奉公に出ましたが、卒業までの間に担任の先生がわが家を訪問することは、ありませんでした。私の場合は、完全にノーマークだったようです。
その後、千房を全国展開していたころでしたか、あるとき、母に尋ねたことがあります。
「お母ちゃん、ぼくのこと、想像でけたか」
たいして勉強ができなかった四男が、将来、曲がりなりにも経営者として全国に数10店舗を展開する姿を母は予見していたのか。私は、母だけは見抜いていたに違いないと期待していました。でも、「想像でけへんかった」と、母は率直に答えました。私のことを誰よりもよく知る母でさえ、私の将来を予想できなかったのです。
それは、母に見る目がなかったからではありません。母も想像できないほど、私が変わってしまったのです。変わることができたのは、環境のおかげなんですね。振り返ってみれば、私はよい出会いに恵まれました。運も強かったと思います。お金も才能も、何もかもないないづくしだった私が、環境に恵まれたおかげで変わることができた。千房では、私自身が変わったように、従業員も変わってくれました。
たとえば、「遅刻の女王」という不名誉なあだ名で呼ばれた女性がいました。いくら店長が注意しても、毎日、必ず30分くらい遅刻する。手を焼いた店長からの報告を受け、彼女を呼んで事情を聞きました。すると、目覚まし時計をセットしていても、寝ぼけて無意識のうちに解除してしまうらしく、気の弛(ゆる)みが習慣化しているだけなんですね。
「明日から、5分早く出社してみないか。25分の遅刻は認めよう」
叱られると思っていた彼女は、私にそう言われて拍子抜けをしたような表情でしたが、わずか5分ならできると思ったのでしょう。「やってみます」と明るく答えて帰っていきました。翌日、彼女は25分きっかり遅刻してきました。
ドラマティックに変わります
5分早く出社できれば、あとは簡単です。20分、10分と短縮して、10日も経(た)つと、走り込んでのギリギリでしたが、ついに遅刻しなくなりました。
そこで、私は彼女を呼び出しました。こんどは褒(ほ)められると思っていたようですが、私は必要以上にこわい顔つきで彼女に言いました。
「これでやっと普通になったんやで。でも、やればできるやろ。こんどは、少しずつ早く出社してみたらどう?」
「がんばれ!」と声をかけると、再び彼女は「やってみます」と明るく答えて帰っていきました。その後、彼女は退職するまでの3年間、ほとんど毎日、定刻の15分くらい前には出社するようになりました。「遅刻の女王」が「早出の女王」に変わったわけです。
彼の現状は「不適格」かもしれませんが、「不適格」な人間が「適格」に変わる様子はドラマティックです。その過程には、人間がもつ無限の可能性を物語る感動があります。
Sさんの情熱で、彼を立派な後継者候補に育ててあげてください。彼がSさんとの出会いを感謝する日が、いつか必ずくるでしょう。
なかい まさつぐ
1945年奈良県生まれ。中学卒業後、丁稚奉公に出る。73年大阪・ミナミにお好み焼き店「千房」を開店。86年大阪府立桃谷高等学校を卒業。現在、国内外に64店舗を展開する「千房」は、年商55億円、従業員824名、本社・大阪市浪速区。
著書に最新刊『それでええやんか!』のほか、『できるやんか!』がある。
●http://www.chibo.com/