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この人に訊く!2013年7月号
「真冬でも行列のできるかき氷屋」はこうして生まれました(かき氷屋「埜庵」・店主 石附浩太郎氏)
---あらためてうかがいますが、鵠沼海岸の住宅地で真冬でも行列ができる人気店になった理由はどこにあるのでしょう。
もちろん、最初から行列ができる店だったわけではありません。一言でいえば、冬でもかき氷を食べる人を増やしていったということですね。以前は通年営業のかき氷店がほとんどありませんでしたし、冬にかき氷をいただくという発想自体なかったわけです。
そのゼロだった状態を少しずつプラスにもっていく努力をしてきました。それは、単においしいものをつくることではなく、先ほど申し上げたように、私たちの思いを理解してもらい、来てくださったお客様を大事にするということに尽きると思います。ですから、「これでもか」というくらいサービスやトークで頑張ったのは事実ですし、もちろん器の中身を充実させることも怠(おこた)りませんでした。
いまでも寒い冬にわざわざ電車に乗ってかき氷を食べにいらっしゃるお客様には、たとえば温かいコーヒーをサービスすることがあります。私にとってお客様の枠を越えた友達のような存在だからです。いわば、遠来の友人にお茶を出す感覚ですね。だから、客商売なのに平気で愚痴も言いますし、本音のコミュニケーションができるのだと思います。
冬に行列ができるといっても夏場の賑わいにはかないませんし、黒字にはなりません。でも、冬場も頑張ることが夏場のお客様につながるのだと思いますし、年間を通じて営業を続けていくことが大きなサービスになっていると思っています。真冬でも食べたいと思ったら来られるわけですから。
---季節による繁閑の差が激しい点が難しいところですね。
そうですね。季節によって需給バランスが大きく変動するわけですが、飲食業の場合はパック旅行の代金のように季節や曜日によって価格を変えるわけにはいきません。それならば、季節によってサービスのレベルを変えればいいと思います。冬場のお客様にコーヒーをサービスするのもその1つですが、閑散期にはお客様とお話しする時間も比較的長くとれますし、サービスする余裕ももてます。実際、冬場のお客様を中心に埜庵のコアなファンが増えているのですが、かき氷よりもそれに付随する空気感を楽しんでいるのだと思います。真夏の繁忙期を避け、秋から冬にかけて足を運んでくださるお客様も多く、そうした方々に支えられていると感じます。