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この人に訊く!2013年7月号
「真冬でも行列のできるかき氷屋」はこうして生まれました(かき氷屋「埜庵」・店主 石附浩太郎氏)
かき氷一本でやっていくと決意した日
---以前は食事メニューも充実させていたそうですが、現在はほぼかき氷メニューに絞っていますね。
近くに公民館があり、帰りに食事をされる方が多いことからランチを何種類か出していたんです。ところがあるとき、ランチのお客様は決してかき氷を注文しないことに気づきました。それに加え、食事をされる方は滞在時間が長いため、かき氷を食べたいお客様を長時間待たせることになってしまいます。かき氷屋にとって大いなる矛盾ですよね。そして、かき氷の注文ゼロの日が、ついにやってきてしまいました。
このとき私は、かき氷一本でやっていくことを決意します。2007年、鵠沼に移って3年目の晩秋です。当面売上が減るのは覚悟しなくてはなりませんので、苦しい決断でした。でも、顔の見えるお客様が増えてきた時期だったこともあり、そういうお客様こそ席にご案内すべきだと強く思ったんです。
かき氷屋をやりたくて勤めを辞め、あえてこの道に入ったのに、かき氷以外のことに振り回されているのは、やはりおかしい。私はやり方を間違えていたんですね。間違えていたなら変えるしかありません。ここで方向性を明確に打ち出せたことが、現在につながっていると思います。
いまはありがたいことに、遠くからわざわざ埜庵のかき氷を食べるためにいらっしゃるお客様が少なくありません。今日も愛知県から1人お見えになりましたが、そういう方に「ランチで混んでいるので2時間待ちです」などとは言えないでしょう。
---埜庵では石附さんだけでなくスタッフの接客態度のレベルが高いと感じます。
日ごろ、どういった指導をされているのですか。
お店というものは、スポーツでいうとサッカー型なんですね。いったんゲームが始まったら、大声を出して指示をしても選手には聞こえません。それと同じで、開店したら閉店までタイムを取って指示を出すことはできないわけです。とくに夏場の繁忙期などは、各人が自分の役割を意識し、動きながら次々に判断しなければお店が回りません。そのためには日ごろからスタッフに店主である私の考え方を理解してもらい、それを浸透させておくことが必要だと考えています。
夏が近づくと突然忙しくなる日というのがあるのですが、そんなとき、学生のアルバイトスタッフは往々にして自分の作業だけで手いっぱいで、全体が見えなくなってしまいます。自分の持ち場をきちんとこなしながらも、誰かの作業が遅れているのであれば、臨機応変にカバーしあってこそプロフェッショナルの仕事なのですが、そこまでのレベルに到達していないわけです。先日もそういう点を指摘して叱ったのですが、「忙しいときは仕方ない」と流さずに、その都度立ち止まって自分たちで考えられる機会をつくるようにしています。それはお店のため、お客様のためであり、またこれから社会人になる彼らのためになることだと思います。
---埜庵の五年後、10年後のイメージはどのように考えていますか。
正直なところ、とにかく続けていくということだけですね。かき氷屋自体、増えていますし、当店にも将来独立するために修行しているスタッフがいます。しかし、個人経営の飲食店は普通にやっていても潰れてしまう時代ですから、かき氷についていえば、季節ものではなく通年で食べるものという文化を根付かせることで、若い人たちがよりかき氷屋を続けやすい方向にもっていきたいですね。そうしてみんなが切磋琢磨することで、かき氷に興味をもつ人が増えたら楽しいと思います。