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THEニッポン発世界企業 海外市場を切り拓くわが社の挑戦2013年8月号
自動包あん機のパイオニアとして“食の近代化”に貢献(レオン自動機株式会社・社長 田代康憲氏)
職人の手技を自動化開発を機に海外進出を志す
そんなグローバル企業のルーツをさかのぼると、1人の和菓子職人にたどりつく。台湾の高雄で生まれ、50年に石川県金沢市で菓子店「虎彦」を創業した林虎彦氏(現・名誉会長)だ。
餅にあんを包む作業は手間がかかり、量産するのは難しい。数をこなそうとすれば長時間労働を余儀なくされる。この工程さえ自動化できれば、職人はもっと創造的な作業に注力できるのではないか……。あるとき饅頭の包あん作業の機械化を思い立った林会長だったが、とくに技術や機械のノウハウがあったわけではない。ただただ職人としての知識と経験をもとに独学を重ねていったのだという。その後、栃木県の鬼怒川温泉に移り住み、虎彦製菓を設立した。
70年に入社以来、林会長のもとで開発に携わってきた田代康憲社長(65歳)は、その研究熱心な人柄を次のように語る。
「創業当時は家業そっちのけで、包あんの自動化に必要な物質の変形と流動に関する科学の研究に没頭していたようですね」(以下、発言は田代社長)
林会長が夢中になって取り組んだのは、菓子やパンなどの材料に多く見られる粘性や弾性の流動を解明する学問「レオロジー(流動学)」だ。これが現社名の由来にもなっている。
液体でもなければ固体でもない。饅頭生地のようなネバネバとした扱いづらい独特の形状の物質にいかに力をかけ、どのように変形させていくべきか。試行錯誤を重ねながら、61年、世界初の包あん機「R-3型」が完成。しかし、毎時2万個という生産能力の高さを危惧した林会長は、このときは実用化を断念したという。
「当時、そんなに大量の饅頭を売る店がなかったという理由もありますが、効率化が行き過ぎると、菓子をつくるうえで大切な作り手の心が失われてしまうのではないか。職人でもある会長は、そのことを1番に考えたんですね」
手作りのよさを損なうことなく、包あん作業を自動化する……一見矛盾するような思いを抱えながらも研究を続け、ようやくたどりついたのが、回転する円盤を用いる成形法だった。この包着盤と呼ばれる回転する円盤は、材料に対し「計算された接線応力と法線応力」を発生させ、切り口に生地を寄せ集めては、あんを自動的に包み込み、丸く整えて饅頭を次々につくっていく。わかりやすくいえば、「こういう大きさのこういった饅頭をつくりたい」という青写真に沿って生地を整え、あんを包み、1つひとつ成形していく機械なのである。
苦心の末、63年に完成した初の実用型自動包あん機「N101型」の製造能力は毎時3,000個。それでも職人が1時間につくることができる数のゆうに10倍だ。弾性のある餅生地が、包着盤によって見事な球形に仕上がっていく光景はマジックそのもの。熟練した職人の手でなければ難しかった工程を自動化したN101型が、当時の和菓子業界にどれほどの衝撃を与えたのか、想像に難くない。
この開発を機にレオン自動機を設立。その後も、林会長は包あん機の改良を続け、和菓子だけでなく、パンやハンバーグなどの製造を自動化できる包あん機「CNシリーズ(通称:火星人)」を開発。楽しい名前は、開発当初の機械が火星人の顔に似ていたことからネーミングされた。