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THEニッポン発世界企業 海外市場を切り拓くわが社の挑戦2013年8月号
自動包あん機のパイオニアとして“食の近代化”に貢献(レオン自動機株式会社・社長 田代康憲氏)
世界各地で受け継がれる“包む食文化”に注目
開発の傍ら、林会長は海外にも目を向けた。創業から2年後の65年には、欧米進出に向けて海外視察を実施。35日間かけて立ち寄った国は10か国というから驚きだ。その後も、積極的に展示会に出ては包あん機の能力をアピールし、市場開拓を着々と進めていったという。
「各地の食文化について研究していくと、『包あん』する食べ物が世界にはたくさんあることに気づきます。たとえば、ポテトで肉を包むドイツのクノーデルがそうですね。包あん機は海外でも使ってもらえるという確かな手応えがありました。この手応えをもとに、ただ先方の要求を受けるだけの“御用聞き”ではなく、自分たちから積極的に商品やメニューを提案する企業として、海外の市場を開拓していったんです」
世界中に存在する「生地に何らかの具材を包む食べ物」に包あん機の応用を試みた同社は、67年に海外1号機の包あん機をハワイの和菓子店に納入。翌年には北米向けの輸出体制が整い、製パンコンサルタントの1つである、アメリカンベーカーズ社と包あん機の長期輸出契約を結んだ。
その後、西ドイツ(当時)とアメリカに営業所を兼ねた研究所を開設。進出当初から販売拠点としての機能をもたせた同社の方針に、市場開拓への情熱と海外の食文化に注ぐ敬意がうかがえよう。
74年には、もうひとつの画期的な技術が完成した。シートからパンをつくる「ストレスフリーストレッチャー」という生地延展装置だ。
大量の生地を小口に分割し、さらに丸めたり棒状にしたり平らに成形する従来型のパンの製法では、分割されるときにシャーリングストレス(ズレ応力)が加わり、生地のゲル特性が破壊され、伸展性が損なわれてしまう。これを補うために使用されるのが化学添加物だが、風味が損なわれるというデメリットがある。しかし、ストレスフリーストレッチャーを使えば、パン生地を分割する前に連続した薄いシート状に成形し、延展振動によって生地の結合を強化したうえで、シートから様々な形のパンを自由自在に成形できる。添加物を使用せずに、手づくりと遜色のない味を実現することができるのである。
翌年には、パイやデニッシュ、クロワッサン類を自動生産できる「MMライン」も誕生した。これによって、どれだけ省略化が図れるようになったのか、パイを例に挙げてみよう。
パイ生地独特の食感を生み出すには、バターを包んだ小麦粉ベースの生地を何度も折りたたんでは延展するという工程を繰り返さなければならない。クロワッサンも同様だ。煩雑で多大な手間のかかる工程があるからこそ、あの風味と食感が実現する。それを可能にしたのがMMラインだった。販売を開始した4年後の79年、同社は米国カリフォルニア州に現地法人のオレンジベーカリーを設立した。
「モデル工場という位置づけでのスタートでした。日本の会社が『この機械でパンやクロワッサンがつくれます』といっても、もともと食文化が違いますから、お客様はなかなか信用してくださらない。そこで、実際に機械が稼働し、パンをつくっている現場を見ていただこうと考えたのです。やがてそこでつくった商品を実際の流通ルートにのせて市場のニーズをリサーチするため、スーパーマーケットでの販売を始め、いまでは4つの工場が稼働するまでになりました。機械の卸先からすれば競合にあたるため、アメリカだから実現できたのでしょう」
また、オレンジベーカリーは、「クロワッサンブームの仕掛け人」と呼ばれている。1個約1.80ドルが相場だったクロワッサンの価格が、オレンジベーカリーの登場によって1.20ドルほどに下がったからだ。庶民にとって手が出しにくかったクロワッサンが、風味や食感を保ったまま、買いやすくなったのである。