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闘うトップ2014年2月号
多くの販売店と共存しながら帽子の素晴らしさを広く伝えたい(株式会社栗原・社長 栗原亮氏)
ブレーキを踏みながら直営店の出店を進める
ところが、私は再び大事な存在を見逃していたことに気づきました。栗原の従業員です。最寄り駅から葬儀場までのご案内も、葬儀場での雑事も、子供のころから見知っている会社のおじちゃんたちが真剣な顔つきでやってくれているわけです。「ああ、この人たちがいるから、おれは生きてこられたんやな」と、そのとき実感しました。
同時に、いつか何らかの形で恩返しをしないといけない、とも思いました。就職先にアパレルメーカーを選んだのも、「いつか家業に仕事を発注できればいいな」という気持ちがどこかにあったからかもしれません。そして、父から「戻ってこい」と声をかけられたとき、1年間くらい迷った末に決断できたのは、縁を感じたからでした。従業員のために力を尽くせということだな、と。
その気持ちは、いまも変わっていません。「override」を諦めずに続けることができたのも、遡(さかのぼ)ればこのときの経験があったからでしょうね。
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現在、同社は卸、OEM、SPAの三事業を展開しており、SPAは直営店の好調で売上の4割を占めるまでに成長した。
「override」はオープン当初こそ苦戦したものの、その存在が知られるようになってからは快進撃が続き、その後、東京・お台場や横浜、大阪などに出店を続けた。顧客層も価格帯も異なるブランドを複数、展開するため、同社の帽子の支持層は10代から高齢者まで幅広い。そのアイテム数も、8,000種類近くに及ぶという。
直営店の拡大はアンテナショップとしての充実にもつながり、顧客情報の量が増え、精度を高めた。毎週、各店舗から寄せられる売れ筋情報やファッション雑誌などに提供する撮影用商品の傾向などを分析。その情報を社内だけでなく、取引先にも提供することで、卸の販売活動にも活用している。
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ありがたいことに、SPA事業は順調に推移していて、今後もまだ伸びていくと予想しています。でも、積極的な出店攻勢は考えていません。むしろ、少しブレーキを踏みながら、できるだけ取引先さんと競合しない地域を選んで、慎重に出店していきたい。そういう考え方は、もしかすると経営者として間違っているのかもしれません。
でも、私どもが自信をもってご提供する帽子ですから、できるだけ多くの方に楽しんでいただきたいんです。そのためには、取引先さんの協力を得て、できるだけ多くの販売店で扱っていただいたほうがいい。私どもだけで全国津々浦々に販売網を広げることができるなら話は別ですが、そんなことは不可能です。帽子に関わる事業者が増えれば、それだけ雇用も広がります。帽子に携(たずさ)わりたいと願う人の受け皿を整えるのも、私の役割の1つだと思っています。
帽子は、日常生活の必需品ではありません。ですから、私どもにとって懸念すべきは同業に負けることではなく、お客様にそっぽを向かれることなんです。お客様に「帽子なんて必要ない」と思われるのが、最も恐ろしい。そうならないためにも、帽子の面白さや美しさ、心地よさや様々な機能を広くお伝えしていきたいですね。