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闘うトップ2014年3月号
デジタルと熟練職人の直感を融合 精密加工で次世代製造業の最先端をゆく(株式会社入曽精密・社長 斉藤清和氏)
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3次元CAD/CAMで最初に試作したのは富士山の上にバネのような突起物をつけた作品だった。これまでの工法では絶対につくれないモノであったにもかかわらず、社員の間では「ブタのシッポみたい」と不評だった。わかる人が見れば驚くほどの技術だが、見た目が美しくなければ訴える力は弱い。そこで、試作第2弾としたのが「アルミのバラ」である。日々の仕事をこなしながら、毎日夜8時ごろからCADに向かい、完成まで1年近くかけた。
「アルミのバラ」は、もとは高さ15センチのアルミ合金のインゴッド(金属柱)だ。MCにセットし削り終えるまで三昼夜。その間、1度も取り出していない。今度は社員もその出来映えに驚いた。
次につくったのが「世界一フェアなサイコロ」である。アナログでつくったサイコロは、出る目に偏(かたよ)りが生じる。サイコロの表面には1から6までの目が掘られており、それによって重心が中心からずれるからだ。斉藤社長はCADを使って正立方体を6つの四角錐(すい)に分割し、それぞれの質量が均等になるよう計算してMCで各面に目を掘った。だからサイコロの目の大きさと凹みの深さはそれぞれ微妙に異なっている。その重心の精密度は理論上、99.9999999%。人間の手では絶対につくれないサイコロなのである。このサイコロは高校の物理の教科書でも取り上げられている。
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その後も、0.3ミリ角の世界最小の削り出しサイコロや奈良の新薬師寺の伐折羅(ばさら)大将像の8分の1のレプリカ、ミクロン単位の目盛りを削り出したモノサシ、NTTドコモの「金の鉄人」キャンペーンの賞品となった鉄人28号の精密フィギュアなど、3次元のデジタル工作機器を手足のように使わないとつくれない作品の数々を世に送り出してきました。