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闘うトップ2014年3月号
デジタルと熟練職人の直感を融合 精密加工で次世代製造業の最先端をゆく(株式会社入曽精密・社長 斉藤清和氏)
他企業とパートナーシップで新しいモノづくりに挑む
なぜ、お金になりそうにない作品をつくってきたかというと、技術力の宣伝のためです。遊び心とか腕自慢ではありません。メシのタネとしてやってきたことなんです。当社はこれまでF1や人工衛星部品の製作に関わってきましたが、守秘義務があって、ウチがつくったと大っぴらには言えない場合が多いのです。せっかくこれだけの技術をもっているのだから世の中の人に知ってもらいたい。そうすることで、私たちと意を同じくするパートナーを探したかったのです。
現在、チタン製のiPhoneケースや文具など自社ブランドももつようになりましたが、こんな小さな会社ですからやれることには限りがあります。新しいモノづくりに挑戦したいという会社はどんどん当社の技術を利用してほしい。実際、企業名は出せませんが、自動車、半導体、医療、音響、楽器など様々な業界から仕事や共同開発の依頼を受けるようになりました。弟子入りを希望して入社してくれる若者もいて、技術の伝承も進んでいます。
デジタル技術によって、モノづくりの世界はものすごいインフラを手に入れた。いまや工具に触ったことのない人でも、3次元CAD/CAMとMCを使えばそれなりのモノがつくれます。でも私たちプロの職人から見れば、そうした人のつくったモノは所詮素人の作品でしかない。プロには長年の修業によって身に付けた直感というか閃(ひらめ)きがあり、どうすれば最も効率がよくなるかなどが理屈ではなくわかります。
また、使い手のことを考えたおもてなしの心ともいえるものをもっている。たとえば、使う人が手を切ることがないようにと、機能とは全然関係ないところで金属の角を丸めておくといったことです。デジタルだけではモノづくりはできないのです。
これから世の製品はどんどんコモディティ化(日用品化)されていくでしょう。いまは最先端でも10年後には誰もがもっている当たり前の製品になっていく。そんななかでちょっと突き抜けた非コモディティなモノづくりをめざすことが重要だと思っています。それはデジタルに職人ワザを融合させることによって可能になる。それが次世代製造業の姿であり、われわれ中小企業が生き残る道はそこにあると思っています。当社はその先駆者であり続けたいのです。