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闘うトップ2013年3月号
雇用の確保でモチベーションを高め、「脱子会社」「脱赤字」を実現する(株式会社日本レーザー・社長 近藤宣之氏)
労働組合の委員長として人員整理を受け入れたとき、私は30歳でした。退職する方は組合からも脱退しますから、個人別に積み立ててきた闘争積立金を返還しなければいけません。私は、その手続きでほぼ全員と面談しました。
当然、私より年長の先輩がほとんどです。複雑な気持ちだったはずですが、その大半は私を激励してくれました。ありがたかったですね。
でも、なかには納得しがたい憤懣(ふんまん)をぶちまける方もいて、激しく指弾されることもありました。とくに「なぜ、組合費を長年、払ってきた者が犠牲 にならねばいけないのだ」という言葉には、返す言葉がなかった。手厚く保護されるべき功労者がリストラされて、社歴が短く、貢献度の低い若者が会社に残る わけですから、当然の疑問です。私は、自分の責任を痛感しました。
同時に、私は社員やその家族の人生を狂わす経営危機というものに、憎悪すら感じました。すべての元凶は、赤字なんです。経営者の能力不足を表わすだけでな く、様々な不幸や軋轢(あつれき)を招く点で、赤字は罪深い。赤字は罪悪であるという考え方は、いまも変わりません。
心のなかでつぶやく「いま、ここ、自分」
何の因果か、そののち私はアメリカ法人と日本レーザーの再建を任されることになりますが、労働組合の委員長という立場で再建に協力するのと経営者として取 り組むのとでは、当然ながら、見える景色がまったく異なります。アメリカでは、赴任中、2回も胃潰瘍になってしまいました。
ただ、どういう状況に置かれても、私は心のなかで「いま、ここ、自分」と、つぶやいてきました。この瞬間、この状況のなかで、自分がやらねば誰がやるん だ、ということです。たとえ損な役回りでも、それが自分の巡り合わせなら、精一杯の力でぶつかってみる。そういう気持ちで挑戦し続けてきたことが、結果と して、日本レーザーの黒字につながってきたと思います。
倒産の危機を脱した日本レーザーは、2007年、いっさいのファンドを入れないかたちでMEBO(Management and Employee Buy-Out)を実施して、親会社からの独立を果たした。国内では、数少ない成功例とされている。
MEBOはM&Aの一種で、経営陣と従業員が一体となって買収対象企業の株式を取得し、経営権を掌握する手法のこと。従業員も買収に参加する点 で、経営陣のみが買収するMBOと異なる。同社では、MEBOの実施以降に加わった新入社員も含め、パート・派遣社員を除く全社員が株主となっている。