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中村智彦の日本一訪ねたい工場2012年6月号
「好きなものをつくる」姿勢で技術を磨き、顧客を惹きつける(株式会社ミナロ・社長 緑川賢司氏)
あらゆる顧客のニーズをホームページを通じてつかむ
同社のサイトには、沿革や崇高な企業理念などはない。これまでに手がけてきた仕事とその期間などが掲載されており、それらが顧客の信頼を高めているのだろう。緑川社長がウェブマスターを務め、メールなどで届く問い合わせにも可能な限り即答し、受注が決まれば、すぐにでも現場で製造が始まるという。
工場内を案内していただく。失礼ながら、特別な機械は目につかない。独自技術や最先端技術もとくにないという。資材であるケミカルウッドなどをカットするための裁断機が設置されたスペースの一角には、細かく裁断されたケミカルウッドが必要以上にあるのではないかと思えるほど積まれている棚があった。
「これらは、工場で使用したケミカルウッドの残り、つまり端材です。以前は廃棄処分していましたが、ドイツから輸入しており、1枚が縦1.5メートル、横50センチほどで、数万円するんです。もったいないので、端材とはいえ欲しい人がいるのではないかと思って、ヤフーオークションに出品してみたところ、案の定、売れました。自宅で成型を楽しむ方もいれば、美大や工芸大の学生が卒業制作に使うケースもあるようです。いまでは当社から直販しており、売上の1割超を占めます。廃材だけでは注文数に間に合わず、販売のためにカットすることもしばしばですよ」
通常、廃材などは手数料を払って処分してもらうだろうが、見方を変えれば商品になる。資材販売を通じて同社の顧客数は急速に増えていった。現在、取引先は個人客も含め、3,000件を超える。
「何にでも挑戦してみようと心がけています。ネット販売にはコストもほとんどかからないので、大げさにいえば、売れなくてもいい。ですが、売れそうなものは売ってみようと発想して、実際にできるかどうかが重要だと思います」
木型を加工するためのマシニングセンターの並びには、電気部品のようなものを製作するエリアもあった。
「量産部品を生産する場合に、簡単に検査できる治具も製造しています。もともと私が勤めていた工場では、自動車の窓ガラスの通電を検査する治具製造を行なっていて、その技術を活かしたものです。治具は1台の平均単価が高いため、単月の売上の8割を占めるケースもありますが、年間の売上は3割ほどですね」
大手企業が手がける量産品であっても、以前のように数年にわたって生産し続ける製品は少なくなっている。新製品は一刻も早く市場に出したいが、精度は落としたくないという場合に、こうした検査治具が必要であり、小回りのきく同社は、そうした要望をもつ取引先から重宝されているのだろう。
ミナロは創業から10年が経過したところである。その間にリーマンショックもあったが、売上は常に右肩上がりだったという。しかし、昨年の震災の影響で、2011年度は初の赤字を経験した。
「震災という要因はありましたが、顧客の都合で仕事はあっという間になくなると実感しました。大手企業が中心ですと、影響も大きい。これからは、自ら市場を拡大する力が必要ですし、そのためには中小企業は下請けに甘んじることなく、自社製品に挑戦する必要がある」
現在、同社が注目しているのが「食とエネルギー」であり、LEDを使用した小型サイズの野菜プランターを開発しているという。
「そうした製品は市場に多く出回っているので差別化が必要。LEDの配列などにもこだわっていますが、当社の製品はデザインを売りにしようと開発を進めています。中国人の富裕層などに対して、ウェブ経由で販売していく計画です」