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これがわが社のヒット&ロングセラー2013年8月号
『ブラックサンダー』(1994年発売/有楽製菓)
「安いのにボリュームがあっておいしい」と、子供から大人まで人気のチョコレートバー『ブラックサンダー』。
「コンビニで15年以上売れ続けるのは驚異的」と業界関係者に言わしめた、噂のロングセラーは、いまも進化しながら新たな歴史を刻んでいる。
おいしさイナズマ級!--印象的なコピーと、ザクザクとした独特の食感で、幅広い客層に支持されるチョコレートバーが、有楽製菓の『ブラックサンダー』だ。会社で学校で自宅で、ちょっと小腹が空いたとき気軽に味わえるスナックとして、1994年の発売以来、ロングセラーを続けている。
「当社はもともと駄菓子店に卸すメーカーで、当時、軽い食感の『チョコナッツスリー』という商品が売れていたので、次はその逆張りの重い食感でいこうと、チョコとビスケット、クッキーの三つの素材を使ったチョコクランチを考案しました。子供向けの商品なので、ネーミングは戦隊もののイメージです(笑)」(以下、発言は同社マーケティング部・伊藤大介氏)
チョコレートが溶けやすい時期を避け、販売期間は秋から春に限定。しかし現在の人気からは想像できないほど、当初は鳴かず飛ばずの売上だった。販売が一定量を満たさず、製造ラインの効率が悪くなるため、同社は一時、終売に踏み切った。
熱心なファンの声で復活
菓子市場では毎年たくさんの新商品が生まれては消えていく。『ブラックサンダー』もその運命をたどるはずだったが、熱心なファンが放っておかなかった。なかでも、九州地方の顧客からは、営業先を通じて「なぜ、辞めてしまうのか」という声が次々と寄せられたのだ。
「そこまで言ってくださるなら、と商品を復活させてはみたものの、その後も売上は〝そこそこ〞で、状況が変わったのは、パッケージデザインとともに商品名をアルファベットからカタカナに変更した03年あたりからでしょうか。『安いのにボリュームがあっておいしい』と、西日本を中心に評判が広まり、セブン-イレブンにも納めることになったんです」
コンビニのPOSデータは、単品ごとの販売状況を容赦なく露(あら)わにする。『ブラックサンダー』の人気が回復し始めたのを受け、同社は05年に冷却輸送を活用し、夏を含む通年での販売をスタートさせた。
快進撃はここからだ。扱い店舗数が増え、販売期間が拡大すると、『ブラックサンダー』は「生協の白石さん(※)」にも取り上げられた。ネットで評判が広がり、学生や社会人のファンも急増。そして人気を決定づけたのが、08年の北京オリンピックである。体操競技の日本人メダリストが「『ブラックサンダー』が大好物」と発言したのだ。
「05年頃から慢性的に製造が追いつかない状況でしたが、オリンピック直後はまさにフル回転。怖いほど注文が殺到しました。当社で何かを仕掛けたわけではなく、いつの間にか売れてしまったというのが正直なところ。1つ言えるとしたら、携帯電話が普及し始め、口コミで評判が広がりやすくなった時代背景があるのかもしれません」
伊藤氏は謙遜するが、商品力があったからこそのヒットであることは間違いない。『ブラックサンダー』を扱うコンビニの中には、本部から指導されずとも、レジ横に商品を陳列したり、手描きのPOPを付ける店が多い。自ら袋詰をして販売する店もある。ユニークな商品名と1個30円で満足感が得られるコストパフォーマンスの高さ。すべてがあいまって、商品と消費者をつなぐ小売店が、自主的に販売を後押ししているのだ。
(※)生協の白石さん
東京農工大学生協の組合員(学生)からの要望に対して、「一言カード」にユーモアとウィットに富んだ回答をする職員・白石昌則さん。 学生のブログで紹介されて反響を呼び、単行本化もされている。