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組織のつくり方2014年7月
この新進気鋭トップの“勇気”に学べ! 挑戦する経営(株式会社システムインテグレータ・社長 梅田弘之氏)
世の中にない製品や独自のサービスは、様々な困難を克服することなしに生まれない。
立ちはだかる壁やリスクを乗り越えるうえで経営者が備えるべきマインドとは何か。それは“勇気”にほかならない。
怯まず挑むトップの姿勢は、従業員や取引先、顧客ひいては社会の支持を集めることにもつながる。
新たなビジネスをつくりあげた新進気鋭の若手経営者が、創業期から貫いてきた志と、挫けることがなかった勇気の源を、苦闘の日々とともに振り返る。
創業者の理想が共有された組織は危機を成長のバネにする
株式会社システムインテグレータ 社長 梅田弘之氏
ECサイト構築ソフトやエンジニア支援ソフトなど、パッケージソフトの開発を手がけるシステムインテグレータ。使い勝手のよい製品づくりが顧客の支持を得て、1995年の創業以来、順調に成長してきた。2006年には東証マザーズ、ことし一月には東証一部への上場を果たしている。
創業者の梅田弘之社長は80年、静岡大学を卒業し、東芝に入社。プラント技術者として勤務したのち、89年に住商情報システムに転職。国内初のERPソフト(販売管理や給与・人事を一元管理できる統合基幹業務パッケージソフト)を開発するなど、ヒットメーカーとしてIT業界で注目を集める存在になった。
やがて、37歳のときに起業。独創的な製品づくりで評価を高める一方、充実した教育制度や人事制度で、風通しのよい職場環境の醸成(じょうせい)にも努めてきた。しかし、一見、順風満帆に見える同社のあゆみにも、これまでに2回の危機があったという。
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もうずいぶん前、ニュージーランドを訪れたときのことです。現地で発行されている雑誌でも読んでいたのか、ふとした折りに目にした文章が、いまも心に強く残っています。
それは、おばあさんが幼い孫を諭(さと)している場面についての記述で、細かい設定は忘れましたが、おおよそ次のようなことを話して聞かせていました。
「みんなが飛び込むからといって、おまえまで飛び込む必要はないんだよ」
私は、この文章を思い出すたび、ある有名なジョークが記憶によみがえってきます。様々な国の人が乗る豪華客船が沈没しそうになったとき、彼らを海に飛び込ませるため、船長が次のように言う、というジョークです。
アメリカ人には「一番に飛び込めば英雄になれますよ」。ドイツ人には「飛び込むのが規則です」。ロシア人には「海にウォッカの瓶が浮かんでいますよ」。イタリア人には「きれいな女性が泳いでいますよ」。そして、日本人には「もうみんな飛び込みました」。
あくまでジョークですから、深く考えず笑っていればよいのですが、それぞれの国民性を鋭く表現していて、私はいつも感心させられます。
日本には、「起業家」が生まれにくい風土があるといわれます。ジョークが指摘するような国民性に加えて、学校教育でも周囲との協調性が重視されます。よいか悪いかは別にして、そうした風土が醸成されてきたのは事実でしょう。起業とは、「他人と違うことをする」ということでもあります。
とはいえ、近ごろ、若い世代を中心に優秀な起業家が誕生している様子を見ていると、状況が少しずつ変わってきているようにも思えます。もちろん、長い歴史のなかで醸成された国民性は、そう簡単に変わるものではありませんが、景気の回復が起業を志す人の背中を押しているのかもしれません。
真相はわかりませんが、起業家が増えているとしたら、日本の社会にとって、よい時代になりつつあるといえるでしょう。優秀な人材が大企業のなかで能力を発揮できずにくすぶってしまうのは、国家にとっても損失です。しかし、そうした人材が組織から独立して、自由な発想で社会に新たな価値を提供し、雇用も生み出してくれれば、日本は間違いなく活気づきます。
ただし、当然ながら、起業にはリスクがつきものです。高い志を掲げて果敢に起業しても、10年、20年を経て、生き残っている会社は、わずかにひと握りといってよい程度でしょう。運よく生き残っても、たびたび大小の危機に見舞われてしまう。そうした危機を経験せずに済むなら、どんなに楽でしょうか。
ところが、もし危機を経験しない会社があったとしたら、その会社は成長もまた経験しない会社だと思います。危機を克服するからこそ、会社は強くなる。そのことを実感するたび、私は経営が子育てによく似ていると感じました。危機はいわば「反抗期」のようなもので、一種の通過儀礼といえるでしょうか。私どもは、これまでに2回の「反抗期」を経験しています。