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組織のつくり方2014年8月
独立自尊の道を一枚岩の組織で歩む 中小企業だからこそ強い!(タビオ株式会社・社長 越智直正氏)
中小企業こそ日本再生の牽引役
実は、靴下業界にも淘汰(とうた)の嵐が吹き荒れて、ずいぶん寂しくなりました。奈良県は日本一の靴下の産地で、タビオが物流拠点を置く広陵町(こうりょうちょう)も、以前は靴下製造工場が軒を連ねて、にぎわっていました。しかし、1990年代に入って、その多くが閉鎖に追い込まれました。海外から大量に流入する安価な製品との価格競争を余儀なくされ、経営基盤の弱い中小企業が、瞬(またた)く間に押し潰されてしまったのです。
その後は、まさに死屍累々(ししるいるい)といった惨状で、廃工場や更地に混じって、かろうじて生き延びた工場が細々と事業を続けているにすぎません。15歳から靴下業界で生きてきた私にとって、広陵町は目をつむっても歩けるほど通い慣れた町でしたが、すっかり面変(おもが)わりしてしまい、近ごろは油断すると迷子になってしまいます。工場とともに貴重な熟練の技術が失われてしまったのは、返す返すも惜しいことでした。
「よいものを安く」という言葉は、消費者の耳に心地よく響きます。でも、品質を追求したら、安くなるはずがない。「よいものは高い」のです。それは子供が考えてもわかる道理であって、古今東西、いついかなる場合においても揺るぎない不変の真理です。にもかかわらず、消費者のためという美名のもとに各業界で不毛な価格競争が起こって、品質を落としても価格さえ安ければよいという不道徳な認識が広まってしまいました。その結果、わが国の産業は戦後の焼け野原のような焦土と化してしまったように感じます。
わが国は、カネ儲けしか考えなくなってしまったのでしょうか。ものづくりに命を賭けてきたプライドは、どこへ行ってしまったのでしょうか。残念ながら、昨今、私は日本の行く末を悲観せずにはいられません。
ただし、一方で、この美しい国を愛する日本人の端くれとして、かすかな希望も捨ててはいません。決して簡単ではないものの、社会に蔓延(まんえん)した拝金主義を反省して、日本人の矜持(きょうじ)を回復する道は残されている。中小企業が、その役割を自覚して祖国再生の牽引役となったとき、国民の意識も大きく変わる可能性を秘めているからです。
風が吹けば飛ばされてしまうような弱者に何ができるのか、と思われるかもしれませんが、私は中小企業こそ国家を再生するための橋頭堡(きょうとうほ)たり得る、と信じています。大企業とは違って、経営者の存念1つで誇り高いまっとうな経営を実現できるからです。経営者が本気になりさえすれば、明日からでもカネ儲けに走る風潮と訣別することができる。浮利を追わず、品質によって顧客の信頼を勝ち取る経営は、中小企業において可能なのです。
この自主独立の精神は、中小企業がもつ最大の強みではないでしょうか。旺盛な独立心で、経営者が自らの信念を実現しようと努めるから、会社に個性が生まれ、お客様が支持してくださる。他者への依存心は経営に油断を招き、会社を思わぬ危機に陥れます。