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組織のつくり方2014年8月
独立自尊の道を一枚岩の組織で歩む 中小企業だからこそ強い!(タビオ株式会社・社長 越智直正氏)
創業の理念のおかげで今日まで存続できた
私は、中小企業の経営とはシンプルなものだと思っています。その点、何万人もの従業員を抱える大企業では、景気変動はもちろん、政治や国際情勢の影響も受けるでしょう。経営者には、それなりに複雑な方程式を解く頭脳や感性も必要だと思います。
しかし、われわれ中小企業の経営は違います。好不調の原因を景気に求めるのは、筋が違うと思う。中小企業の経営者は本来、外部の何ものにも制約を受けない自由を手にしているのですから、そのプライドにおいて、不振の原因を外的要因に求めるのは責任転嫁でしかないと考えるからです。
景気がよいの悪いのと、他人様の財布の中身を気にする時間があるなら、魅力的な商品の開発や改良に全身全霊を込めて取り組むべきであって、そうした臨機応変の経営が中小企業の武器ではないでしょうか。中小企業の経営において大切なのは、競合他社や世間の動向を分析することではなく、自分が何をやるかということです。その単純さにおいて、私は加減乗除さえできれば何ら支障はないと思っています。
たとえば、100円で販売する商品の原価が80円であれば、手許には20円の利益が残る。原価が81円なら利益は19円に減る。この単純さが、中小企業の経営の本質です。ここに外国生まれの数式を当てはめてみたり、一見、頭のよさそうな理論をもちこんでしまうから、本質が見えなくなってしまう。経営だけでなく、あらゆることに通じると思いますが、本当に重要なことはたいてい単純明快な構造をもっているものです。
そうした意味で、経営者がすべての従業員と共有すべき理念もまた、シンプルなほうがいい。
タビオでは、いまも毎朝、始業に際して全従業員で次のような「創業の理念」を唱和しています。
「凡(およ)そ商品は、造って喜び、売って喜び、買って喜ぶようにすべし。造って喜び、売って喜び、買って喜ばざるは、道に叶(かな)わず」
これは、江戸時代末期の農政家である二宮尊徳の言葉です。丁稚奉公していた勤め先を追い出されるように辞め、その後、わずか13万円を元手に創業して、いよいよ明日から営業を始めるという前夜、胸中の万感を込めて毛筆で紙に書きました。以来、今日に至るまでタビオの経営理念として大切にしてきました。言葉の意味は、あらためて解説するまでもないでしょう。
近ごろ、従業員と一緒に唱和していると、ふと胸が熱くなって、1人、声が詰まってしまうことがあります。突然、何の脈絡もなく過去のできごとが思い出されて、半世紀近くもの間、倒産もせずによく続けてこられたものだという感慨が胸に迫ってくるのです。この言葉があったから、目先の利益に惑わされることもなく、価格競争の泥沼に足をすくわれることもなかった。中小企業経営において最も大切なことは、金儲けのテクニックではなく、ものごとの判断を過(あやま)たない倫理観であり、正しい道を歩もうとする志だと思います。
と言うと、何とも堅苦しい話になってしまいますが、中小企業経営ほど楽しい仕事はないというのが、偽らざる率直な実感です。何日も眠れないほど資金繰りに悩まされたこともあり、ときには騙(だま)されたり、裏切られたり、思い通りにならないこともありましたが、それでもやはり中小企業の経営は面白い。これほど自由で、夢があって、世の中の役に立つ仕事はありません。
日本の将来を担う若い経営者のみなさんには、どうかこの素晴らしさを堪能(たんのう)しながら、誇り高い商売を心がけていただきたいと念じています。