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経営理念2013年2月号
成功への経験値は、躓いてこそ得られる 失敗に学び、生かす経営(株式会社エイチ・アイ・エス 会長 澤田秀雄氏)
失敗するからこそ知恵を絞り、努力する
事業運営上の失敗に関してなら、小さなものをカウントすれば、それこそ数限りなく経験しています。そもそも経営者としては最初から失敗の真っ只中にいました。話は80年、インターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)の設立時までさかのぼります。
当時の日本では航空券は非常に高価で、現在のように学生が気軽に海外旅行に行けるような状況ではありませんでした。そこで私は、かつて西ドイツに留学し世界各国を旅して歩いた経験から、格安航空券を日本でも取り扱えば必ず成功すると考えて、新宿に事務所を構えました。
ところが、最初の3か月はお客様が訪れることは滅多になく、電話も鳴りません。大手旅行代理店で買えば50万円するチケットを半額の25万円で売ろうというのに、お客様は来てくださらない。なぜなのか、懸命に考えました。知名度がないから来ないのか、ブランド力がないからなのか、あるいは小さく汚いオフィスゆえに半額という価格設定が詐欺ではないかと不安がられているのか--。
そして、いま思えば当然のことですが、お客様に来ていただくためには宣伝する必要があり、チケットを購入していただくためには信頼していただく必要があると気づきます。ツアーをご利用になったお客様に口コミで宣伝していただく仕掛けをつくるなど、徐々に集客や販売のノウハウを貯え、事業は軌道に乗りました。失敗したからこそ、飛躍するヒントを得ることができたといえます。
旅行代理店を筆頭に、航空会社、ホテル、証券会社など、私は様々な業種の会社経営に携わってきました。その多くは、私なりに成算をもっての挑戦でしたが、2010年4月、私が社長に就任して支援に入ったハウステンボス(長崎県佐世保市)に関しては少々違いました。
ハウステンボスは創業以来18年間連続赤字という経営状況で、誰もが再生は難しいと考えていました。私もお受けする前はそうでした。商圏は小さく、その規模は東京の20分の1以下、長崎空港から電車や車で1時間、福岡市内からは1時間半以上と非常にアクセスが悪く、オープンして20年近く経つため設備も老朽化していた。まさに失敗の条件が揃っており、それゆえに長らく赤字だったわけです。
まずは集客することを最優先に、エイチ・アイ・エスでの経験から「安くしたら売れるだろう」と考え、夕方からの入場料の値下げを試みました。ところが、3,000円ほどするチケットの価格を2,000円にしても1,000円にしても、お客様は集まりません。それならばと思い切ってタダにしても、やはりお客様は増えません。明らかな失敗です。
そこで改めてわかったことは、いくら安くても、肝心の中身がよくなければお客様は足を運んでくださらないという当然の真理です。いま、夜のイベントとして開催している「光の王国」がご好評いただいていますが、ショーやイベントを充実させることで集客につながり、それが楽しいものであれば、たとえ1,000円だった入場料が2,000円、3,000円になっても来ていただけることを学びました。
おかげさまでハウステンボスは支援に入った翌期に黒字化し、一応の成功をみました。社員が私の考えや理念をよく理解し、知恵を絞って頑張ってくれたからですが、その土台の上で、挑戦と失敗を繰り返して全員で学び、イベントとサービスの質、精度を向上させることができたのも大きな要因だと思っています。
個々のイベントに関しては、いまもトライアンドエラーの繰り返しです。失敗した場合、内容がよくなかったのか、内容はよくても宣伝や営業の失敗によって集客できなかったのかなどの分析を行ない、その反省に立って次のイベントを仕掛けています。1回で成功させることができればベストなのでしょうが、たやすいものだと思ってしまうと、知恵も出さず、努力もしない組織になってしまうでしょう。やはり成功よりも、失敗から学ぶことのほうが大きいのです。