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経営理念2013年2月号
成功への経験値は、躓いてこそ得られる 失敗に学び、生かす経営(株式会社エイチ・アイ・エス 会長 澤田秀雄氏)
「その道のプロ」に任せることも失敗から学ぶ
私は現在、2つの金融機関の会長を務めています。1つはエイチ・エス証券、もう1つはモンゴルのハーン銀行です。
エイチ・エス証券の前身は、自主廃業した山一證券の子会社である協立証券で、ちょうどインターネット取引が始まったころ、M&Aの話が飛び込んできました。最初はお断りしたのですが、結局引き受けることになり、ネット取引のシステムを整えました。
ところが、いざ始めてみると、信用取引の口座数が急増したことでコンピュータシステムがダウンしてしまいます。金融庁から行政処分を受け、大きなマーケットシェアの獲得に失敗する残念な結果となりました。これは、私に金融とITの知識が不足していたことが最大の原因です。
金融の世界は奥が深く、規制についても他の業界より厳格で、付け焼刃の知識では通用しません。直接的にはシステム会社の責任であっても、私に金融の「経験値」が少なかったことが失敗につながったわけです。現在、同社は上場を果たして上昇傾向にありますが、私にとって大きな教訓となりました。
その後、モンゴルのハーン銀行を買収した際には、ヘッドハントした一流の金融マンに経営を任せて、私は会長として目標や夢、そしてポリシーを提示するにとどめました。買収時には赤字だったハーン銀行は、現在モンゴルでナンバーワンのリテール・バンクに成長しています。このように、状況によってはその道のプロに経営を任せることも、私が失敗から学んだ知恵といえます。
96年にスカイマークエアラインズを設立したときも、経験値の不足で苦しみました。私は以前からLCC(格安航空会社)の可能性に期待していたのですが、日本ではいっこうに生まれる気配がない。そこで自ら設立に踏み切ったのですが、様々な側面から新規参入のハードルは高く、まず整備士やパイロット、CAなどの専門職が集まらないことに苦慮しました。旅客機を1機飛ばすのに、地上要員を含めて約250人の専門職が必要なのですが、その人材がなかなか確保できなかったのです。
既存航空会社のほぼ半額の料金ということで当初の搭乗率は80~90%と好調だったのですが、スカイマークの飛ぶ前後の便を大手に値下げされ、一時は搭乗率が30~40%に急降下。ブランド力を見せつけられる形となりました。
黒字転換するまでしばらくかかり、現在は直接的な経営からは手を引いていますが、行動に移すのが早かっただけで、後悔はしていません。本格的に到来しつつあるLCC時代に先駆けた貢献はできたと思いますし、この経験自体、必ずどこかで活かせると考えています。
ここまで、体験に基づいて、トップ自身の失敗についての私の考えを述べてきました。最後に触れておきたいのは、トップは部下の失敗にどう対応すべきかということです。失敗を活かす会社であるために、この点は重要でしょう。
留意したいのは、失敗には2通りあるということ。つまり、挑戦した結果の失敗なのか、怠惰な姿勢で臨んだゆえの失敗なのかを見極めなくてはなりません。
冒頭で述べたように、企業は挑戦しなければ生き残れない時代ですから、ことに若い社員にはどんどん挑戦してもらわないといけません。挑戦した結果の失敗を責めれば社員は委縮し、やる気をなくしてしまいます。それでは会社に未来はない。怠惰や不注意による失敗には何らかのペナルティが必要ですが、前向きな挑戦での失敗ならば、大らかに見守る度量がトップには求められます。
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失敗は誰にとっても辛く、痛みを感じることでもあります。そのため、1度の失敗で意気消沈し、挑戦しなくなる経営者も見受けられます。実にもったいない。せっかくの失敗を活かすべきです。
何より大事なのは、失敗しても決して諦めない姿勢です。そしてトップは失敗したときこそ、ウソでもいいから明るく振る舞うこと。経験上、トップが明るいだけで社員の立ち直りも早まります。明るく振る舞いながら、なぜ失敗したのかをとことん考えることです。失敗の中に、答えは必ず潜んでいるのです。