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経営理念2014年2月号
“世のため人の為”を貫いて支持を得る 本気で、善をなす会社(中村ブレイス株式会社 社長 中村俊郎氏)
昨今、いわゆる「ブラック企業」や食材偽装など、社会問題となっている報道を通じて、あらためて企業倫理が問われています。残業代も支払わずに従業員が病気になるまで働かせたり、目先の利益のためにお客様を騙(だま)すのは、当然、非難されるべきで、その会社や経営者が社会的な制裁を受けるとすれば、それはわれわれの社会が発揮する健全な自浄作用でしょう。
しかしながら、あえて誤解を恐れずに言えば、問題が発覚した会社や経営者だけを悪者にしても、企業倫理が粛正(しゅくせい)されることはないように思います。儲け第一の拝金主義とか、ブランドをありがたがる社会風潮とか、一部の会社や経営者を「不善」へと導くような環境がなかったと言えるのか、われわれも胸に手を当てて考えるべきではないでしょうか。最高級のブランド牛肉が、年中、どこへ行っても比較的、廉価で食べられるなど、よく考えてみればおかしな話です。
その点、義肢装具業界は景気変動や社会風潮といった外的要因の影響を受けにくく、40年間を振り返ってみても、市場が急拡大することもなければ、一気に冷え込む大打撃もほとんどありませんでした。この業界は従業員が10名規模の零細業者が多く、その数は600社に及ぶといわれます。他業界のように弱小資本が淘汰されなかったのは、市場が安定していたからでしょう。
とはいえ、当然ながら、ただ安穏(あんのん)として旧習になずむばかりでは生き残ることはできません。逆に、利益だけを追うような拡大志向も戒めるべきです。実は、私どもにもそうした誘惑に駆られる場面がありました。シリコーンゴム製足底装具の製品化に成功したころです。
当時、シリコーンゴムはまだ身近な素材ではありませんでした。成形が難しく扱いづらかったことに加え、非常に高価だったからでしょう。しかし、ビニールなどと違って通気性がよく、肌触りもやさしい。劣化しにくい点も魅力でした。私は、それで足底装具をつくってみようと思い立ちました。靴の中敷きです。
意外に思われるかもしれませんが、靴の中敷きは医療用具としても大切なもので、膝(ひざ)や外反母趾(がいはんぼし)の痛みを緩和することができます。私どもがシリコーンゴム製品の開発に成功するまで、革やコルクが使われていました。
型枠に適した素材を研究したり、成形時に発生する気泡を除去する方法を考えたり、どれほど試行錯誤を繰り返したでしょうか。開発費として、数100万円を投じました。そのころの私どもにとって、小さな額ではありません。でも、足もとはまさに人間の土台ですから、よい素材を使って、少しでも使いやすい製品をつくりたいという気持ちは変わりませんでした。結局、製品化まで1年近くかかったと思います。そして、日本を含めて9か国で特許を取得しました。