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  • 経営理念2014年2月号

    “世のため人の為”を貫いて支持を得る 本気で、善をなす会社(中村ブレイス株式会社 社長 中村俊郎氏)

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特許製品の委託販売で同業者との共栄をめざす

このとき、私どもでは製品を独占的に販売する道を選ぶこともできました。もし、そうしていたら、大変に生意気な言い方ですが、年商が10億円に達するまで、そう時間はかからなかったと思います。実際、これまでの同製品の累計出荷数は、150万個を超えています。何しろ市場は海外にも広がりますから、取らぬ狸の皮算用で、私は大阪や九州にヘリコプターで出張するような会社になるかもしれないと想像して、胸を躍らせたことをいまもよく覚えています。お恥ずかしいかぎりです。

しかし、実際には、私どもは製品の独占販売ではなく、全国の義肢装具会社への委託販売を選択しました。理由は、いくつかあります。最も大きな理由は、私どもだけでは患者さんのフォローに手が回らないからでした。

義肢装具は、患者さんにご購入いただいたら「終わり」というわけにはいきません。むしろ、そのときから本格的なおつき合いが始まる。毎日、使うものですから、装具が傷(いた)んだり、変形することもあります。また、患者さんの身体に変化が生じることもあるでしょう。そのたびに、かかりつけの医師のアドバイスもいただきながら、微調整を施さなければいけません。

そうしたきめ細やかな対応ができるのは、地元の会社です。近隣の病院と連携でき、何か問題があればすぐに患者さんのもとに駆けつけることができる会社が必要なのです。それも、多くの零細業者が各地に点在する理由の1つです。

そう考えると、私どもにとって委託販売以外の選択肢はなくなったも同然でした。全国の義肢装具会社に扱っていただければ、それだけ多くの患者さんの役に立ちます。また、おこがましい考え方ですが、少数精鋭でがんばっておられる同業者の売上に、少しは貢献できるとも思いました。そもそも患者さんの役に立ちたいと考えて開発した製品ですから、その利益を独り占めしようという考え方が間違っていたわけです。

率直なところ、いまに至るまで、自分自身の選択を悔やんだことは1度もありません。また、患者さんや全国の義肢装具会社のために、自ら成長の機会を犠牲にしたつもりもありません。むしろ、委託販売であったからこそ、150万個も出荷できた。私どもが独占していたら、せっかくの製品も、それを必要とする患者さんのもとに届かなかったかもしれません。それは、私どもにとって最も不本意な結末です。

実は、創業前にアメリカで義肢装具を学んでいたころ、私は交通事故で命を失いかけたことがあります。事故にあって、ふと目を覚ますと、そこは大学病院の霊安室でした。以来、私は自分自身が「生かされている」と考えるようになりました。生かしてくださったのが神様なのか仏様なのかはわかりませんが、まさか私に裕福な暮らしを味わわせたかったからではないでしょう。「他人様の役に立て」という意味だったはずです。

いずれにせよ、私は他人様の役に立つ男にならなければ申し訳がないと考えるようになりました。そんな個人的な経験も、私どもの経営に深く影響しているのは、間違いないと思います。



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(株)名南経営コンサルティング
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