厳選記事

  • キラリと光るスモールカンパニー2013年4月号

    家業の撚糸加工を進化・発展させ特殊糸や化学製品を独創する(丸昌産業株式会社・社長 小久保和浩氏)

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10年の歳月をかけ光触媒水溶液を開発

二酸化チタンなどの光触媒は、紫外線を当てると表面で強い酸化作用が生まれて有機物を分解し、水と二酸化炭素に変える。もう1つの作用として超親水性も示す。
「光触媒が活かせることは直感しましたが、繊維に光触媒を塗布するのが難しく、塗布できても繊維がボロボロになってしまいました。そこで、専門家を採用 し、専任で研究に当たってもらいました。結局、10年かかって開発に成功したのですが、実は洗濯不要の服を必要とする人はほとんどいなかった。値段が高す ぎたからです。自衛隊や米軍の戦闘服など特殊な用途として採用されましたが、一般衣服ではニーズがないので用途を転換しました」
02年、こうしてM-クリーンが日の目を見た。だが当初、名もない糸づくりの会社がつくった光触媒水溶液は、国内では受け入れられなかった。無名で新しいものに手を出そうとする企業はなかったのである。そこで、小久保社長は海外展示会に積極的に出展を重ねたという。
戸外で使う光触媒はあるが、蛍光灯が発する微弱な紫外線でも効果のあるM-クリーンは海外企業から注目を集め、多くの引き合いがくるようになった。すると、その評判が国内にも波及し始め、徐々に売れるようになっていった。
現在、丸昌産業の海外売上高比率は全体の数%に過ぎないが、初動のスターター役として海外進出は効果的だった。ちなみに、全売上高の95%が繊維部門で完成品の服まで引き受けることが大半だ。
「現在、環境と省エネは社会的に大きなテーマです。化学製品はそれに貢献できる力を秘めているので、今後の伸びに期待しています」
また、2012年秋冬物から「SUPERIOR(スペリオル)」というメンズ向けの自社ブランドもスタートし、OEMからの脱皮を徐々に図っていくねらいだ。

実力主義こそ中小企業の魅力

「可能であれば、事業転換は体力のあるうちに着手するべきだと思います。どうしても少なからぬ投資が必要になるからです。当社も苦しいなか、事業転換を図 る過程で人材を増やすとともに、一所懸命に研究開発への投資を続けており、絶えず5~6つのテーマを同時並行で進めています。ニーズがあると思えば、まず つくってみる。その後、お客さんの声を聞いて改善すればいいのです。私は繊維のことしか知らないし、繊維でしか戦っていけない。でも、だからこそ広がりも 出るんです。他社が真似のできない本当に特殊なものを自分たちの手でつくって世の中に問うていくと、当初のねらい以外の用途も必ず出てくると実感していま す」
小久保社長の独自技術・製品へのこだわりは強い。そのため、生み出した技術の保護を徹底している。同社では一切、特許を出願しないのである。厳重に社内で管理し、たとえ得意先だろうと取引銀行だろうと工場内や機械を見せることはない。
実は15年ほど前、ある化学品の特許を申請したところ、大手がその周囲を固めるように特許を出願し、身動きがとれなくなった経験があるという。
「特許争いでは大手にはかないません。中小は画期的な発明というより応用技術なので、周囲を押さえられると勝負できなくなるのです」
秘密主義と揶揄(やゆ)されることもあるが、小久保社長は気にする様子もない。
社内は実力主義で、年齢や社歴に関わらず、成果を上げれば相応の報酬を得られる。
「当社は、いわば賃貸マンションのようなもので、社員は家賃分の働きさえすればあとは何をやってもいい。社歴は浅いのに常務になった人もいますし、それが 大手にはない中小の魅力だと思います。休日も年間125日と、中小では珍しいほど休む。その代わり働くときは全力でやってもらう。当社は社員1人で企画、 開発、製造、営業も行なうのできついとは思いますが、その分、責任ある仕事ができますよ」と小久保社長は笑う。
以前は学歴を問わず採用していたが、現在では大卒が中心だ。社員17人の平均年齢は30代半ばで働き盛りである。
「1人勝ちの商売では長続きしません。お客さんも取引先も社員も皆、少しずつよくなるような商売が基本です。利益は最終的に出ればいい。うちは取引先とはとことん付き合います」
事業は変えたが、商売の精神では伝統を守る。老舗企業の底力だろう。



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(株)名南経営コンサルティング
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