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キラリと光るスモールカンパニー2013年3月号
世界初、バネを使ったメンテナンス不要の濾過装置を開発し見事に下請けから脱皮(株式会社モノベエンジニアリング・社長 物部長順氏)
3,000万円以上の不渡りを食らった経験も
1941年生まれの物部社長の姓は「もののべ」と読む。古代、蘇我氏と覇権を争った物部氏の末裔である。出身は秋田県で、弟が大仙市にある唐松神社の第64代宮司の職を継いだ。
「社名を『モノノベ』にすると呼びにくいと思ったので、『モノベ』にしたんです」と笑う。
物部社長は東京の大学で工学を修め、一部上場の機械部品メーカーに就職した。枠にはまらない性格で、会社の規則などお構いなしで、夜中まで働いては毎朝、遅刻。外部の取引先に出向くと、その工場の技術や設備を学ぼうと、丸1日会社に戻らなかったという。
上司の指示にも従わず、「あいつは生意気だ」とにらまれたが、社長はそんな物部社長の資質に気づいたのだろう、設計から旋盤、溶接、プレス、品質管理と社 内の現場を一通り経験させ、さらに、外の企業に出向を命じて武者修行もさせた。そのうち、若手ながら生産全体を見渡せるほどの知識と技術を得て、様々な生 産改善に成果を上げるようになった。
たとえば、部品のプレス加工を13工程から3工程に短縮したり、ネジの加工法を合理化して年間1,200万円ものコスト削減を果たした。物部社長の月給が当時3万円弱というから、給料の30倍以上もの働きをしたことになる。
だが、まだ若いということもあったのか、こうした規格外の働きは、大企業では正当に評価されにくい。物部社長は、自分のいるべき場所を求めて3年半で退職。68年に26歳でモノベエンジニアリングを設立した。電話番役の夫人との2人だけのスタートだった。
出向先企業の社長と懇意にしていたことから、その事務所の机を借り、設計を手伝うことになった。おもに家電製品の設計を手がけ、髪の毛をセットするためのスチームアイロンや自動缶切り機などを開発した。
右肩上がりの時代で、順調に収益が増えたが、好事魔多し。72年、取引先の1つが倒産して3,000万円以上の不渡りを食らった。支払いを待ってもらうた めに仕入れ先や下請け先などに頭を下げて回り、必死で稼いで完済した。その後、73年のオイルショックでも不渡りをつかまされたが、下請け先は協力してく れたという。
金型工場の視察からバネ式フィルターを考案
物部社長は現場に精通し、生産工程を熟知していたことから、自ら加工法まで設計し、複数の加工下請けとネットワークを組んで効率的に仕事ができた。そのた め、同業より安く高品質な製品を仕上げるという評判が口コミで広がって注文が増え、次第に幅広い技術力を身につけて、どんな依頼でも引き受けられる精密加 工会社として知られるようになっていった。
80年、自動車向けに障害物との距離を測る超音波センサーの部品を村田製作所と共同開発。87年にはCDの読み取りレンズを支える部品を大手オーディオメーカーと共同で手がけた。このころになると大手メーカーとの取引が増えていった。
だが、こうして開発した部品も競合製品が世に出るようになると値が下がり、CDの部品については1個10円から30銭まで下がり、物部社長は下請け部品メーカーとして生き残る厳しさを実感。その状況を脱するために、自社オリジナル製品を生み出そうと決意した。
物部社長が大手金型メーカーの工場を視察したとき、工場の裏には鉄くずが混ざった排水を処理する際に使ったフィルターが山積みされていた。そのメーカーの 社長が「排水の濾過におカネがかかって仕方がない」と嘆くのを聞いて、物部社長の挑戦が始まった。交換不要のフィルターをつくろうと考え、それまでの経験 から利用できるのはバネしかないと直感した。93年のことである。
ただ、バネに突起を設けてフィルターの穴の代わりにするアイデアはすぐに思いついたが、ステンレス線に精密に突起をつくり、螺旋状に巻くのは至難の業だっ た。大手鉄鋼メーカーのバネの専門家(現在はモノベエンジニアリング専務)に相談したり、線材メーカーと共同で開発しながら工夫を重ねるうち、6年の月日 と人件費も含め3億円のコストがかかったが、99年、ついに試作機が完成した。
画期的な製品はマスメディアからも注目されて話題になり、表彰も受けた。線材に突起をつくることを特許化していた企業から訴訟を起こされたこともあるが、勝訴して02年にはその特許を買い取った。
現在、九州大学と共同でタンカーなどのバランスを保つバラスト水の処理装置を開発中だ。海水であるバラスト水は、取水地とは別の場所で排水すると生態系を壊す危険があり、世界的に処理の義務化が進められている。将来、大きな市場になる可能性を秘めているのである。
「装置を簡素化し、標準タイプをつくって価格を下げたい」と語る物部社長の技術者魂は、ますます燃え上がる。