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ビジネスの視点2014年5月号
自らを成功に導く発想・姿勢・習慣をつかめ! 運を呼ぶ経営(千房株式会社・社長 中井政嗣氏/株式会社エンジニア・社長 髙崎充弘氏)
おみくじを引いて「大凶」は気分がよい
中井 髙崎さんは、そうして縁を大事になさってきたのでしょうね。だから、運もめぐってくる。「運」は「縁」なんです。
髙崎 中井さんは幅広いご人脈をおもちでしょうから、不思議な縁をお感じになることも多々、あったでしょうね。昨年暮れ、千房さんは創業40周年を迎えられました。それほど長い間、経営の第一線で活躍なさっていれば、波瀾万丈(はらんばんじょう)のドラマも多いと思います。
中井 いくらでもあります。そもそも、40年も続いたことが奇跡でしょう。運が悪ければ、不可能です。
髙崎 それは感じますね。私どもは、1948年に父と叔父が創業した双葉工具製作所が源流ですから、ことしで66年になります。その間、幸福な偶然に助けられたり、信じがたいような天の配剤に命拾いした経験は、数え切れないほどにあったと思います。
中井 私は、中学校を卒業してすぐ、丁稚奉公に出ましたでしょう。その半年後に父を亡くしていますので、まずそこが分かれ道です。自暴自棄(じぼうじき)になってグレるか、まっとうな人生を歩むか。このときは、私の兄が「自立せよ」と進むべき道を示してくれました。そのためには、お金を貯めないといけません。
髙崎 でも、給料と言っても小遣い程度ではありませんか。
中井 はい。兄は、それでもお金を貯める簡単なコツを教えてくれました。「使わんかったら貯まる」と。そして、金銭出納帳(すいとうちょう)をつけろと言うんですね。「ほんまに役に立つのか」と感じましたが、それで一人前の商売人になれるのなら易(やす)いものと、素直に兄の言葉に従って、5年間、詳細な金銭出納帳をつけました。それが、こんどは千房を創業するとき、金融機関から資金を借り入れる際の担保になるんです。
髙崎 担保ですか。
中井 担保です。信用組合の理事長さんが、それを見て私を信用してくださったんですね。80万円しか預金のなかった私に、3,000万円も融資してくださいました。
髙崎 お金に対して不真面目な人ではないと、金銭出納帳が証明してくれたわけですね。
中井 とはいえ、普通、貸してくれません。天の助けとしか思えませんでした。あらためて振り返ってみると、私の人生には節目節目に、その理事長さんのような方が現われて、私を助けてくださいました。われながら、運のよい男だと思います。
髙崎 でも、誰にでも天の助けがあるとは思えません。しかも、危機のたびに誰かが助けてくれるというのは、よほど運がよいのでしょうね。やはり、普段から運を招き寄せるような言動を心がけていらっしゃったのでしょうか。
中井 一般的には、日常生活のなかで験(げん)を担(かつ)いだり、まじないや占いといった方面に心の拠(よ)りどころを求めるのかもしれませんが、私はいっさいありません。むしろ、迷信には挑戦するタイプです。
髙崎 どういうことでしょうか。
中井 たとえば、著書を出版する際にホテルでパーティをしますね。もちろん、関係者の意向もあるので、それを尊重しますが、私の個人的なイベントなら、あえて仏滅の日にぶつけてみたりします。仏滅はお客が少ないので、予約が取りやすいんですね。ホテル側も、喜んでくれます。もっとも、仏滅を選ぶというかたちで験を担いでいるとも言えるのかもしれませんけど。
髙崎 たとえ迷信とわかっていても、ピンチに陥(おちい)ると「藁(わら)にもすがる」思いで験を担ぎたくなるものですが……。
中井 藁にすがったら溺(おぼ)れます(笑)。
髙崎 すがるものを間違ってはいけませんね(笑)。
中井 おみくじを引いても、「大凶」が出たら気分がよいんです。いまが最悪の状態であるなら、今後は上向くばかりでしょう。「ツイてるなあ」と心から思います。
髙崎 面白い考え方ですね。
中井 運を招き寄せるのは、結局、正々堂々と、まっすぐに生きることと違いますか。千房を創業する前、私は22歳から6年間、大阪・長居で喜多八というお好み焼き屋を経営していました。家主でもある老夫婦の店舗兼住居を引き継いだんですね。けっこう繁盛しました。ところが、突然、お店を明け渡して出ていかなければいけなくなりました。当時、5歳と3歳の子供を抱えていましたから、収入が途絶え、住む家さえなくなって、この先、どうやって生きていこうかと悩んだものでした。
髙崎 それは、まったく予想外のなりゆきだったのですか。
中井 いいえ、いずれ家主さんから言われたら、出ていかなければいけないことにはなっていました。でも、お店を繁盛させた自負もあって、まさか出ていけとは言われないだろうと思い込んでいたんですね。そのとき、どうしたらよいかとある方に相談すると、「訴訟したら勝てる」と勧められたんです。
髙崎 店舗の営業権も住居の居住権もある、というわけですね。
中井 はい。でも、私は瞬時も迷いませんでした。6年間もお店を任せてくれた家主さんと裁判で争うなんて、そんな恩知らずなことはできません。たとえ裁判に勝っても、一時的には生活の安定が得られるのかもしれませんが、後味が悪いでしょう。家族で野垂(のた)れ死ぬことになっても潔(いさぎよ)く出ていこうと、女房と肚(はら)を括(くく)りました。
髙崎 しかし、家主さんに対して不満に感じてもおかしくないと思います。
中井 正直なところ、「冷たいことを言わはるなあ」とは思いました。でも、しばらく経って千日前に千房をオープンさせたとき、家主さんご夫婦がわざわざお祝いに来てくださったんです。しかも、ご祝儀に10万円もくださった。当時の10万円は大きいですよ。「こんなにええ人を訴えなくてよかった」と、心から思いましたね(笑)。