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ビジネスの視点2013年7月号
お試し・返品もOK! 進化するネット通販の顧客サービスに学ぶ
インターネットを利用して商品を購入する“ネット通販”。扱う商材の幅は年々拡がり、いまや“買えないものはない”とまで言われている。なかでも、徹底した顧客志向のサービスで売上を伸ばす、ネット通販企業に集客のヒントを探った。
取材・構成/流通ジャーナリスト 三田村蕗子
ネット通販(ECサイト)市場の伸びが凄すさまじい。毎年2桁成長を続けており、2012年度の市場規模は、約10兆2,000億円、5年以内には17兆円を超える見通しだ(野村総合研究所調べ)。
市場規模の伸びをもたらしている要因としては、ネットの普及、スマホ利用率の向上などが挙げられるが、商品のバリエーションの増加も大きい。ネット通販黎明(れいめい)期には、書籍やPC関連商品、DVDといった「品番で購入すれば間違いのない商品」が中心となって市場を牽引してきたが、もはやネット通販で買えないものはない時代になってきた。車や住宅など高額商品に加え、これまで通販に馴染まないとされてきた靴や洋服、メガネといった商材が当たり前のように販売され、実店舗との境界がなくなってきている。
ネット通販が強くなってきた理由
対面販売が欠かせなかったはずの商材が、なぜ通販で売れるようになったのか。答えは単純だ。ネットに向かないとされた問題点を創意工夫で解消し、使い勝手を向上させるだけでなく、逆に実店舗以上の、顧客満足度の高いサービスを提供する企業が増えてきたからである。
たとえば、40~50代の女性をターゲットに据えた婦人服を扱う「ドゥクラッセ」は、「おうちで試着、合わなければ交換」と明確に謳(うた)い、購入から3週間以内の交換・引取に応じている。色やサイズが合わなかったり、別の商品に変えたい場合は、コールセンターに電話をするだけ。新たな商品を配送してもらい、不要になった商品と無料で交換できる仕組みだ。その際、交換・返品理由を購入者から聞き出すことで、販売側は商品の改善や開発に活かしている。
カタログやネットでどんなに商品特性が詳細に紹介されていても、実際の着心地や印象は試着してみないとわからない。だが、無料で交換できるとなれば、購入時のハードルはぐんと下がる。しかも、自宅に居ながらにして試着ができるなら、利用者は不安どころか、むしろ通販の利便性を強く感じるようになる。「試してから買いたい」というニーズに応えた結果、創業からわずか6年で、同社の会員数は約80万人規模となり、年商は100億円に迫る勢いだ。
同じく、お試し・返品無料サービスで市場での存在感を増しているのが、靴・バッグの通販サイト「ジャヴァリ」と「ロコンド」である。長い間、靴はサイズ確認とフィッティングが欠かせない商材とされてきた。同じサイズ表示でも、メーカーやブランドによって微妙に履き心地が異なり、実際に足を入れてみないと自分の足に合うか、快適に歩けるかどうかは確認できないからだ。
しかし、実店舗は実店舗なりに問題点を抱えている。販売員が在庫を出すのに時間がかかるため、何足もの試し履きは頼みにくかったり、「自宅にある洋服との相性がわからない」といったお客側の不満が常について回る。そもそも、店舗の限られた在庫スペースでは、お客の欲しい色やサイズすべてをまかなえない。ところが、こうした問題点をネット通販は解消した。
最大の利点は「検索できる」こと。両サイトともに1,000を超える国内外のブランド靴の中から、自分が欲しい靴を条件づけで簡単に絞り込める。そのうえ、自宅で試し履きをした後、一定期間内なら無料で返品が可能だ(ジャヴァリ=365日以内、ロコンド=30日以内)。
お客は「いいな」と思った靴を何足でも取り寄せることができ、色やサイズの確認はもちろん、手持ちの服とコーディネートできる。返品の際には手数料や送料も不要で、宅配業者に電話をするだけ。注文方法や商品に疑問があれば、フリーダイヤルまたはネット上でカスタマーサービスやコンシェルジュに相談できるサービスもある。ジャヴァリは業績を公表していないようだが、ロコンドの場合、今年2月期の売上高(アパレル商品等も含む)は約35億円、前年比3倍の伸びだという。
同様のサービスを化粧品に適用している企業もある。「ファンケル」では、買った化粧品に満足がいかない場合、使用後であっても、たとえずっと前に買ったものであっても、無期限・送料無料で返品が可能。「実際に肌に乗せて、ある程度の期間使ってみないと自分の肌に合うかどうかわからない」という化粧品ならではの特性をカバーした究極のサービスといえよう。
現状を疑うことからビジネスチャンスが広がる
こうして見ていくと、「ネットでは売れない」という発想は単なる先入観や思い込みに過ぎないことがよくわかる。ビジネスの進化を阻止しているのは、商品やそれを取り巻く環境の特殊さではない。「これはこう売るのが当たり前」という現状肯定こそが元凶なのだ。むしろ「この販路では難しい」という商品にこそ、ビジネスチャンスが眠っていると見るべきだろう。
現状に疑問を投げかけ、問題点を解消するサービスを実現したとき、消費者の満足度はアップし、ブランド力はさらに高まっていく。上の図表に掲げたのは、お試しサービスなど顧客志向で伸びているネット通販企業の一例だが、このほか、新たなビジネスモデルを掲げる企業も出てきた。躍進する2社の取り組みを次に見ていこう。