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ビジネスの視点2013年7月号
お試し・返品もOK! 進化するネット通販の顧客サービスに学ぶ
【事例2】
“お試し利用”に特化したサービスで消費の新しいスタイルを広めたい
株式会社フォレストワン 社長 森川義明 氏
ロボット型掃除機、ハイスペック炊飯器、美肌づくりに効果的だと評判の美容機器……。機能満載の高額家電を買う前には「1度は試してみたい」という利用意欲と「買って失敗したくない」という慎重な思いが同時に湧く。こうした消費者心理に応え、最新型で話題性の高い家電品に絞り込んだレンタルサービス「おかりなレンタル」を展開しているのがフォレストワンだ。事業のきっかけを森川義明社長(40歳)はこう話す。
「大型量販店などに行けば、商品に触ることはできますが、体験できる機能はほんの1部。口コミ情報は参考になっても、実際に使わないとわからないことって多いですよね。たとえば、ロボット型掃除機が、毛足の長いカーペットにも対応するのかどうか、事前にわかれば、いい判断材料になる。『おかりなサービス』は、こうした不安を解消するサービスなんです」(以下、発言は森川社長)
現在の扱い商品は90種類、点数にして約250点。無料で会員登録し、商品リストから商品とレンタル期間を選んで、クレジットカードによる決済を済ませれば、指定日に商品が届く仕組みだ。最も利用頻度の高い商品は、実勢価格8万~10万円の高級炊飯器やロボット型掃除機。とりわけ、『ルンバ』は創業時からのヒットアイテムで、最上級モデルの場合、最短5日間のレンタルで料金は3,500円。これに往復送料800円が加わる。お試し期間は長いとは言えないが、機能を確認するには十分な日数だろう。
森川社長は、99年にインターネット広告の会社を設立し、マザーズ上場を成し遂げた後、事業から手を引き、新たなビジネス創造に踏み切った。
「長くネット広告に携わってきたので、消費者向けのサービスを手がけてみたかったんです。オークションやフリーマーケットなども検討しましたが、ブランドバッグのレンタルサービスがあることを知り、人気の高級家電を一定期間お試しできるサービスなら、ニーズがあるのではないかと考えました」
レンタルのシステムを構築し、商品を調達してサービスを開始したのが2011年6月。家電だけでなく、当初はスポーツ用品や子供の玩具なども揃えたが、レンタル実績はほぼ皆無だった。「おかりなレンタル」の会員は女性が7割。スペックにうるさく、仕様書を見て購入を決めがちな男性と違い、女性は「試してみたい」というニーズが強い。そこで現在は、女性をターゲットに据え、キッチン家電や理美容機器の品揃えを強化しているという。
一見、シンプルなレンタルサービスに見えて、「おかりなレンタル」には信頼を勝ち取り、利用促進を図るアイデアがいくつも盛り込まれている。その1つが不正利用の防止対策。同社では、佐川急便による本人確認サービスを利用しており、商品を受け取れるのは本人のみ。しかも、自宅で手渡しが原則だ。
「個人の信用を担保するための仕組みです。おかげさまで事故はありません。延滞は追加でカード決済しますが、こちらもほとんど例がないですね」
送料は当初、往復1,200~1,400円に設定していたが、3,000円前後のレンタル料金に対して相対的に高すぎたため、予約が入りにくく、佐川急便と交渉の末、1年前から片道400円に変更した。
商品の梱包にもアイデアが光る。同社では、メーカーの箱でそのまま送るのではなく、別に用意した外箱に入れて二重梱包している。こうすることで、メーカーの箱が傷つきにくく、外箱さえ変えれば、きれいな梱包で何度も発送できる。結果的にはコストが下がり、利用者の印象もアップするというわけだ。
商品が返却されると、専任スタッフがいったん分解して汚れや不具合がないかどうかを内部から確認し、掃除したうえで再びレンタルに回す。会員増に直結する「信用」を培うと同時に、レンタル商品を長く使っていくための取り組みである。
集めた利用者の声をマーケティングにも活かす
「おかりなレンタル」には、商品をレンタルする事業のほかに、もう1つ、別の側面がある。「お試しキャンペーン」によるメーカーのマーケティング事業の代行だ。同キャンペーンでは、商品を月額1,000円で貸し出し、商品ごとに内容をアレンジしたアンケートを同梱。ユーザーから届く声をメーカーにフィードバックしている。このキャンペーンでは、ユーザーが商品を購入することも可能で、購入時には販売価格の15%が同社の手数料収入となる。
アンケート回収率は70%以上。無料配布のサンプルではこうはいかない。高い回収率は、レンタル料金を自腹で払った購入予備軍ならではの「自分の声を届けたい」という意識の表われだ。会員は7割が30代~40代の女性。家電メーカーのターゲット層とずばり一致する。マーケティング代行業務は、メーカーにとってはターゲットに間接的プロモーションを展開し、機能を訴求できる費用対効果の高いサービスといえようか。
「量販店さんの手前もあって大手メーカーはこのサービスにはまだ消極的ですが、本音では安売り合戦から距離を置き、直販にコミットしていきたいはず。メーカーの直販チャネルの代理として機能するこのサービスの利用は、これから増えていくと見ています」
会員数は首都圏を中心に5,000名を突破。順調な伸びに見えるが、会員増にレンタル台数が追いつかず、人気商品の場合、レンタル待ちの期間が約2か月という問題点もある。
「現在、レンタル商品は買い上げているものが多く、メーカーからの委託は20~30%程度。今後はマーケティングに力を入れ、会員数に見合った台数を確保していく方針です。体験後の感想をスマホからでも書き込み、ネットで自由に閲覧できるようにしたいですね。課題はたくさんありますが、体験してから購入するという習慣は、数年後にはもっと浸透していくのではないでしょうか。そうなれば、メーカー側も、多機能・高機能重視のものづくりを見直し、価格を抑える方向にシフトしていくのかもしれません」
「おかりなレンタル」の試みは、消費の新しいスタイルを後押しするだけでなく、業績低迷に苦しみ、打開策を模索する日本の家電メーカーにも少なからぬ影響を与えそうだ。