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ビジョナリー・リーダー2013年8月号
千年後も光り輝く会社であり続けるために礎を築く(イワキ株式会社・社長 岩城修氏)
【社訓をブレイクダウンし意識の共有を図る】
--御社のように複数のグループ企業を抱え、従業員数も800名を超えると、意識の共有が難しい面もあると思いますが、そのあたりはどうされていますか。
私の代になって「IWAKI WAY(イワキウェイ)」という、社員の行動規範となるものを定めました。創業者の代につくられた社訓をブレイクダウンし、具体的な解釈を施したものです。
私は大学を出てすぐ当社に入社し、ほぼ全部署で仕事を経験しました。先代社長の時代も、いろいろな形で社訓を解釈した方針書などが出されていましたが、どうも下から見ていると、意識の共有がうまくなされていない。意外に若い世代は社訓に対して純粋なところがあり、むしろ社長の思いが届いているんです。対して、中間管理職層やベテランは自分なりの解釈の度合いが、長く働く間に広がる傾向がある。そのギャップをなんとかしないといけないと思っていました。
そこで、幹部たちともディスカッションを重ねて、胸ポケットに入るほどの手帳型にまとめたのがイワキウェイです。「イワキ」の信条、「イワキ」の方針、「イワキマン」の方針の、大きく3つの柱に分け、それぞれを数項目に細分化して、社訓に基づき、会社として、社員として大切にすべき考え方は何か、現実にどう行動すべきかをかみくだいて記し、自分の行動と照らし合わせることができるよう工夫しています。
たとえば、社訓の5に「『信用』は会社の生命である。われわれのすべての方策、言動はこの『信用』を守り、さらに倍加するものに限られる」とあります。この社訓5は、イワキウェイにおいては7項目に関連して記しています。
数年前、企業不祥事が続けざまに発生した際、「コンプライアンス(法令遵守)」という言葉が注目されましたが、当社にとって薬事法をはじめとする関係法令を守ることは当然のことです。しかし、さまざまな取引のなかでそれが破られる可能性はゼロではありません。ですから私は社員に対して、いつも「法令だけでなく、倫理も守らなければならない」と言っていますが、イワキウェイは、結果的にコンプライアンスマニュアルの役割も果たしました。
--教育・研修にも非常に力を入れていらっしゃいますね。
研修については、階層別研修と選択型研修に分けて実施しています。自ら考え、行動できる人材を育成することが大きな1つの目的ですから、自発的に参加するスタンスが大事ですね。
階層別研修は、内定者研修、新入社員研修、新入社員フォローアップ研修、入社5~10年目対象のヒューマンスキル研修、部長研修などがあります。中堅から管理者層を対象としたものの内容は時期によって異なり、ロジカルライティング、リーダーシップ、コミュニケーション、座禅など多彩です。
選択型研修は基本的に参加自由のものですが、当社独自のものとして挙げられるのが「イワキ・ビジネス・スクール(IBS)」と「木曜ロンザ」です。IBSでは、現在、外部から講師を招いて語学研修(英会話講座、中国語講座)を行なっています。木曜ロンザとは毎月第3木曜日に社外の多種多様な分野の講師を招いて行なう講演会のことで、日々の業務から離れて、ふだん接点のない分野や話題にふれ、視野を広げることが目的です。外部の方も聴講可能で、知的好奇心を喚起する有益な研修だと思っています。自由参加が基本ですが、参加者が少ないと講師の方に失礼ですから、幹部社員には出席を義務づけています。
先代社長の時代にも「木曜会」として不定期で開催していましたが、木曜ロンザとしてからは定例化し、ことし6月で173回を数えるに至りました。その回ではJALで機長・操縦訓練教官を務められた小西正人さんに「安全な空の旅」がいかにして生まれるかについて、その道のプロフェッショナルならではのお話をしていただいています。
教育・研修というものは一朝一夕に目に見える効果が出るものではありません。それでも少しずつ、個々の社員の知識や人間の幅が広がっていけば、社業にも必ず反映されていきます。
私はいま、千年後も光り輝く会社の礎をつくっているつもりです。礎を支えるのは1人ひとりの社員で、その教育は遠い未来につながる大切なものです。創業100年はあくまで通過点。「信用」や「誠実」という創業以来の価値観を大切にしながら変革を重ね、社員とともに次の100年を創っていきたいですね。